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人生初の時差ボケになった話


 
 

薄々と不調は感じていた

 

日本から途中アブダビにて飛行機を乗り継ぐこと24時間

はるばるドイツへやって来た私はいつもとは違う自分の体に困惑していた

 

・・・だるい

 

ただの疲労ではない

完全に油断していた

飛行機という空飛ぶ鉄のベッドに

 

フライト中はエコノミークラスユーザーとしては比較的快適な飛行生活を送っていたつもりだった

いつものフライトグッズであるアイマスクに耳栓に枕、厚手の靴下にスリッパ、乾燥対策のニベアにマスクに加えて、蒸気でアイマスクまで持ち込んでいた

さらに渡航前に友人が餞別としてくれた、MILESTの3wayネックピローという、ひざ掛けにも毛布にもなる優れた代物を抱えていた

(さらにこれは”ウォッシャブル”というミスター出来杉もびっくりの優等生である)

MILESTO UTILITY 洗える3WAY ネックピロー

  

極め付けは登場して1時間ほどで出てくる機内食を食べ終えたのち、快適な睡眠時間と口内環境のために、歯磨きまで終えていた

(余談だが私は今回の機内食オプションでベジタリアンを選択していた。私自身は特にベジタリアンというわけではないが、身動きもしない飛行機の中で消化にエネルギーと体力を必要とする肉を食べるのは良くない。出てきたのはボイルしたミックスベジタブルの何か。案の定まずかった。)

 

私は勝利を確信していた

 

目的地ドイツに着くのが昼過ぎであり、そこから私のこの先数ヶ月の棲家となるアパートまで行き、管理人から鍵を受け取った後は生活必需品の買い出しと、その先の生死を分けるsimカードを手に入れるというミッションをそのままこなさなければいけない

 

長距離フライトではあるが、現地に到着してすぐに休めるわけではない

万全の体制で飛行機で眠りにつき、あとは到着してその日の予定をこなすだけのはずだった

 

ところが、だ

 

どうにもだるいのだ

加えて頭も痛い

呼吸も浅くなっていて息苦しい気もする

 

10時間越えのフライトは今までに何度か経験したことがあるが、こんなのは初めてだ

 

見えない不調の見えない原因に狼狽えながらやっとの事で手に入れたsimカードをスマホに差し込み、ブラウザを立ち上げる

 

「だるい 頭痛 時差ボケ」

 

—-検索—-

 

・・・チェックメイトだ

 

わんさか出てくる時差ボケの症状に高確率で当てはまる

これが世に言う時差ボケというものか

 

誰もが羨む健康優良児の私は、久しく味わっていなかった体調不良というものに懐かしささえ覚えながら挨拶をした

 

「グーテンダーク。」

 

私の唯一知るドイツ語である

 

なんと人類は無力なものか

これだけ科学が発展し、不治の病と言われたガンでさえ治療法が見つかるかもしれないというこの21世紀に、時差ボケをパチンと一発で治す方法はない

 

解消法として出てくるのはどれもありきたりな「適度に体を動かす」だの「太陽の光を浴びる」だの「暴飲暴食をしない」だの50代の父親に渡される生活習慣病予防リストのような文言ばかり

 

そんなことはとうにやっている

こちとら齢二十数年

勉強はできないがそれでも無駄に生きてきたわけではない

 

悪態をつきながら治らない不調を抱えてベッドに潜り込むものの、

胃の不快感も相まって寝られやしない

 

到着して3日

私の時差ボケは、まだ、治らない